小劇場で活動する俳優の生活や、演劇、映像の現場をリアリティ溢れる筆致で描いた作品。役者を志す、鴨島友仁と宝田多家良は小さな劇団に所属して7年。もともと学生演劇に携わっていた友仁が、素人の多家良に演技の仕方を教え込んだところ、多家良は友仁を嫉妬させるほどの才能を発揮するようになった。しかし、それを見抜いているのはまだ友仁だけ。友仁はそんな多家良の才能を世間に知らしめようと、安いアパートの隣同士の部屋を借りて共同生活し、生活力のない多家良を全面的に支える。友仁も自らの夢を諦めたわけではなく、多家良とともに「世界一の役者になりたい」という想いを抱えたまま。そんななか、多家良は少しずつ役者としての道を歩み始めていく。友仁の多家良に対する複雑な感情、多家良の魅力と支えがなければ生きていけない危うさを、演技シーンを象徴的に盛り込んで表現。登場人物がその時々で抱く感情の機微も、繊細な線で描き分けた。