小さくて少し抜けているけれど、いたってまともで優しくて愛おしい主人公すず。主人公の個性は、そのままこの作品の魅力だ。すずは初めて会う*男に望まれて海軍の街、呉にお嫁にいく。主人公に導かれ、日本がかつて戦争をしていた日常へとタイムトリップすると、そこは知らないはずなのに妙に懐かしく、貧しいのに豊かで、降りかかる運命は過酷なのに、自然でほのぼのとした清々しい世界。リアルな戦中を舞台にした作品なのに、思想的ではなくみごとに普遍的で、誰もがときめくことができる少女マンガになり得ているところに驚嘆した。今日の物差しで測るのではなく、丹念に調べ丁寧に描き、この時代を受け入れ、なおかつマンガの魅力や冒険に満ちている。作者の創作に対する揺るぎない姿勢が、これを可能にした。心を込めて毎日を生きるって、なんて尊くてステキなのだろうと思わせてくれる、何度も読み返したい名作である。
*出版社注:すずは初めて会ったと思っているが実際には昔会っている。