郷愁を呼び覚ます、降り続く雨音と情景
雨の光景がひたすら印象的である。距離をおいて捉え続ける被写体たちは音も含め存在感を放たず、風景の一部のようだ。作者はこの作品を通じて何を言いたかったのだろうか。雨とは何を意味するのだろう? メタファーへの憶測をよそにこの映像世界の中ではただ淡々と時間が流れ、鑑賞者は次第に身を委ねる心地良さに包まれてゆく。そんな「世界」をアニメーション表現で創造しようとしたのかもしれない。昨年の優秀賞『フミコの告白』石田祐康による新人賞受賞である。異例との声も上がったが「新人」の規定をめぐる今年度アニメーション部門審査委員による見解で「年齢は無関係、審査委員総意による評価すべき新しい才能」として慎重に討議された末の堂々の結果だ。演出技法や制作フロー、テーマへのアプローチを解析・証明しつつ着実に作品を創り続けるこの若いアニメーションクリエイターの成長が楽しみである。